実家や空き家の相続を放棄しても大丈夫?相続放棄の注意点と家の対処法をわかりやすく解説

2025.06.20

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なぜ「親の家の相続を放棄したい」と思うのか?

実家を継ぐことへの不安と現実

親の相続を経験する多くの場合は、相続する側の立場としては同居していることよりも独立して別々に暮らしています。また他の相続人の思い出もたくさん詰まった実家を背負う精神的な負担感もあります。こうした背景から、近年、「親の家を相続したくない」という声が増えているのは、それが必ずしも資産とは限らないからです。

特に地方や郊外の住宅に多く見られるのが、需要のない空き家の増加です。人口減少などに伴い、需要が少ない地域においては売買価格が非常に安くてもなかなか買い手が見つからず、老朽化した建物を解体する費用の方が、売却価格よりも高くなってします場合もあります。

築年数が古く老朽化が進んでいたり、駅から遠く売却や賃貸の見通しが立たなかったりする実家は、相続しても活用できず、固定資産税や維持管理費だけがかかる“負動産”になってしまうのです。

「使わない」「売れない」「管理に手間とお金がかかる」――そんな状況では、感情よりも現実が優先され、相続放棄を検討する人が増えていくのは当然の流れといえるでしょう。

相続後の維持管理と金銭的リスク

実家を相続すれば、自動的にその所有権とともに管理責任も引き継ぐことになります。たとえば以下のような費用や義務が発生します。

  • 固定資産税・都市計画税などの税金
  • 屋根・外壁・設備の修繕や庭の手入れ
  • 防犯対策や近隣住民との関係維持
  • 冬季の積雪対策、台風時の飛散防止 など

建物は人の出入りがなくなると、どんどん劣化が進行していきます。空き家になった家は、時間が経つほど劣化しやすく、近隣に迷惑をかければ損害賠償を求められることもあります。「放っておけばよい」では済まされないのが相続不動産の現実です。

しかも実家が老朽化している場合には、売却や賃貸による収入を得ることも難しく、「持っているだけで赤字が続く」という状況に陥りやすくなります。

そもそも相続放棄とは?

相続放棄の定義と法的効果

「相続放棄」とは、被相続人が残した資産や負債を一切相続せずに放棄することです。これは、財産を受け取らないという意思を、家庭裁判所に正式に申し立てすることで成立します。

一般的には相続というと、現預金や不動産などの資産プラスの財産を受け取ることをイメージしがちですが、負債マイナスの財産である借金や滞納金、 その他保証人の地位なども含まれるのが特徴です。

そのため、「相続すれば不利益を被る」と判断したときには、相続放棄をすることで、これらの義務から法的に免れることができます。

一度相続放棄が受理されれば、簡単には取り消しができない点にも注意が必要です。

家だけを放棄することは可能?

よくある疑問や誤解として、「実家だけ放棄して、現預金や株式だけ受け取ることはできるのか?」という疑問がありますが、一部の財産だけを放棄することはできません。

プラスの財産(資産)の範囲内で、マイナスの財産(負債)を引き継ぐ、限定承認という方法を相続人全員で行う必要があります。

参考:相続の限定承認の申述

相続放棄は、原則として相続全体に対する「全部かゼロか」の選択になります。したがって、たとえば実家の相続を避けたいからといって、家だけを放棄することはできません。一度実家も相続した後にうまく整理していくことになります。

また、相続放棄を希望していても、被相続人の遺産を勝手に使ったり売却したりしてしまうと、単純承認として「相続を承認した」とみなされて、放棄できなくなる恐れもあります。

したがって、相続放棄を検討する際は、遺産を売却したり費消したりしないで、財産に手を付けないまま、慎重に判断する必要があります。

相続放棄が認められる条件と注意点

相続放棄を行うためには、いくつかの要件があります。

  • 期限:原則として、被相続人(親)が亡くなったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
  • 手続き:相続人自身が家庭裁判所に出向き、書類や必要な情報を提出する必要があります。
  • 単純承認の回避:遺品の処分や預金の引き出しなどをしてしまうと放棄ができなくなる可能性があるため、慎重に行動する必要があります。

特に期限である3ヶ月以内に手続きが必要であることを認識しておらず、何となく後回しにしているうちに期限を過ぎてしまうケースがあります。この場合、相続放棄できずに不本意でも資産負債を引き継ぐことになります。

そのため、相続放棄を検討する際には、早期の判断と専門家への相談がカギとなります。

親の家を相続放棄するとどうなる?空き家や土地の行方

相続放棄すると所有権はどうなる?

相続人が自分一人だけか、他にもいるかで変わってきます。

相続放棄をした場合、放棄をした人は最初から相続人でなかったことになると民法で定められています。

そのため、相続放棄した人に子どもがいても、次の世代への代襲相続は生じません。

次順位の相続人へ移る仕組み

相続放棄が行われると、相続権は次の順位の相続人へと移ります。

たとえば、配偶者が既に亡くなっており、子全員が相続放棄をすれば、次順位である被相続人の兄弟姉妹や甥・姪に権利が移るケースが一般的です。これにより、実家の所有権や管理義務が新たな相続人に引き継がれることになります。

相続人の範囲と順位

全員放棄した場合の“国庫帰属”とその流れ

相続人全員が相続放棄した場合、実家のような不動産は最終的にどうなるのでしょうか。

この場合、「相続財産清算人」という第三者を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。この管理人が不動産を含めた相続財産を精算し、最終的には国庫に帰属という形で、法的に整理されます。

相続財産清算人の選任には申立てが必要であり、費用や手間もかかります。また、管理人が見つからず手続きが進まないまま、家が放置される事例も少なくありません。

さらに近年注目されている「相続土地国庫帰属制度」も、一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえる制度ですが、老朽化や担保設定などがあると引き取りが拒否されるケースも多いのが実情です。

そのため、「放棄すればすべて解決」とは限らず、その後の流れや責任も把握しておく必要があるのです。

相続放棄したのに管理義務が残る?誤解しやすい落とし穴

空き家の管理責任が問われるケースとは?

相続放棄をしたのに「空き家の管理義務がある」と言われることがあります。これは多くの人が混乱するポイントです。

2023年4月から施行された改正民法により、たとえ相続放棄をしても、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、管理責任を負う旨が明記されました。

相続人が実家に住んでいたり、遺品整理や家財道具の処分のために一時的に占有している場合、その人には建物を適切に管理する責任があるとされるのです。

「相続財産清算人」とは何か?

被相続人に相続人がいない場合や、相続人全員が放棄した場合、最終的には

家庭裁判所によって「相続財産清算人」が選任される流れになります。

この相続財産清算人は、放棄された財産を調査・処分・精算し、残余があれば国庫に帰属させる役割を持ちます。利害関係人が申し立てることが可能ですが、費用は自己負担する必要があります。

相続人がいないというだけで、自動的に国がすべて処理してくれるわけではないため、結果として「相続放棄したのに自分で管理し続けなければならない」という事態にもなりかねません。

参考:相続財産清算人

相続放棄すべきかどうかの判断ポイント

専門家が見る“危険な相続”とは

相続放棄は、「資産よりも大きな負債がある」「使い道のない不動産がある」といった状況で選ばれることが多いですが、“感覚”や“雰囲気”で判断するのは非常に危険です。

親の実家が古くて売れそうにないから放棄したい、というケースでも、実は周辺開発で価値が上昇していたりするケースもあります。

一方で、そこまで古くなくても、接道義務を果たしておらず再建築ができなかったり、隣地との高低差が激しく擁壁工事などで多額の費用が必要となったり、私道の持分がなかったりするなど、実は難しい物件だった、ということもあります。

このような判断を誤らないためには、不動産の専門家や相続に強い弁護士の意見を聞くことが欠かせません。

放棄のメリット・デメリットを整理しよう

特に問題になりやすいのは、「放棄したことで親族に負担が移り、関係が悪化した」というケースです。

感情的な要素も絡む相続では、メリット・デメリットを冷静に書き出し、第三者の意見を交えながら判断することが肝心です。

相続放棄の具体的な手続きと流れ

ステップ① 書類をそろえる

相続放棄に必要な主な書類は以下のとおりです。

  • 相続放棄申述書(家庭裁判所の様式)
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 相続人であることを示す戸籍謄本
  • 本人(申述人)の住民票
  • 収入印紙(800円)と郵便切手(裁判所指定の額)

申述書は家庭裁判所のホームページからダウンロード可能で、記入例も用意されています。迷ったときは必ず確認しましょう。

ステップ② 家庭裁判所に提出する

準備が整ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ書類を提出します。方法は、郵送または直接持参のどちらでもOKです。

ここでの注意点はただひとつ。「相続の開始を知ってから3ヶ月以内」に提出すること。

この期限を過ぎると、原則として放棄は認められません。

ステップ③ 裁判所からの連絡に対応する

提出後、裁判所から「照会書」(質問書)が届くことがあります。これは、放棄の意思が本当に本人の意思かどうか確認するためのものです。指定の内容に答えて返信しましょう。

また、追加資料の提出を求められることもあります。こうした連絡にはできるだけ早く対応することがスムーズな進行につながります。

ステップ④ 受理通知が届いて手続き完了

審査の結果、問題がなければ「相続放棄申述受理通知書」が郵送で届きます。これで手続きは完了です。

受理されると、法的には「はじめから相続人ではなかった」扱いとなり、相続に関する責任から解放されます。ただし、一度受理された放棄は原則取り消しができません。慎重に判断しましょう。

弁護士・司法書士に相談すべきケース

相続放棄の手続き自体は、比較的シンプルに見えるかもしれませんが、以下のような場合には、法律の専門家に相談することを強くおすすめします。

  • 相続財産がプラスかマイナスか不明確な場合
  • 複数の相続人で意見が分かれている場合
  • すでに一部の財産に手を付けてしまった可能性がある場合
  • 放棄後の空き家や土地の管理が心配な場合

弁護士に依頼すれば、裁判所への提出書類の作成や、放棄後のリスクへの備えも含めてより安全に確実に手続きが進められます。

費用は数万円〜十数万円程度が相場ですが、「将来トラブルにならない保証を買う」と考えれば、決して高くはありません。

放棄以外の方法も知っておこう 実家の活用・売却という選択肢

不動産売却でリスクを回避する

相続放棄は相続開始を知った日から3ヶ月以内という期限があります。後からよく考えると放棄してもよかったと思う場合でも、基本的には遡れません。

一旦相続した親の実家については、売却して現金化する方法もあります。

ここ数年では、空き家の放置リスクや管理コストの増大から、「相続したら速やかに売却したいというお考えの方も増えている状況です。

相続登記を済ませた後、不動産仲介業者に依頼して売却することで、維持管理の費用や手間を解消していくことが可能となります。

自治体の空き家バンク活用

自治体によっては、「空き家バンク」という制度を設け、空き家を地域内で再活用する動きを推進しています。これは、売却または賃貸を希望する所有者と、空き家を探している人をマッチングする制度です。

制度の利用には自治体ごとの条件などがありますので、相続予定の地域の市区町村のウェブサイトを事前に確認しておきましょう。

以下の国土交通省のページでは、全国の空家バンクに登録された空き地や空き家を確認することが可能です。

参考:空き家・空き地バンク総合情報ページ

「相続土地国庫帰属制度」は本当に使えるのか?

相続した土地を国に費用を払って引き取ってもらう制度です。

令和5年4月にスタートした「相続土地国庫帰属制度」は、当初は土地を国に引き取ってもらえる制度として注目されましたが、実際には非常に厳しい審査基準があり、誰でも使えるわけではありません。

対象になるには、

  • 境界が明確に確定している
  • ゴミや建物が残っていない
  • 土地が周囲に悪影響を及ぼさない
  • 担保や権利関係が整理されている

その他土地の種別ごとに細かな要件が定めれており、審査期間も長くかかり、審査料や負担金といった名目で数十万円単位での費用がかかります。引き取ってもらうといっても、まとまった費用がかかるのはとてもネックで使い勝手が悪い原因となっています。

参考:相続土地国庫帰属制度について

このように「現実的には使えるケースが少ない」のが実情であり、あくまで最後の手段として認識しておくべきです。

親の家をどうするか迷ったら、まずすべきこと

親の家を相続するかどうか、そして相続放棄をすべきかどうか。

これは単に「財産を引き継ぐかどうか」という話ではなく、将来にわたる管理責任や人間関係、生活の設計にまで深く関わる重要な選択です。

相続放棄は、「家を放棄すればそれで終わり」ではありません。管理義務や親族との関係、法的手続きの複雑さ、放棄後に起きうる空き家トラブルなど、実に多くの要素が絡み合っています。

そうしたなかで、3ヶ月という短い期限で判断しなければなりません。後悔のない相続のためには、「事前の備えと早めの相談」に尽きます。

  • 親が元気なうちに実家についての意向を話し合っておく
  • 相続対象となる財産を把握しておく
  • 相続税や不動産の査定について専門家の意見を聞いておく
  • いざという時は速やかに専門家に相談できる体制を整えておく

このような準備ができていれば、「相続放棄すべきか?」という問いにも冷静かつ戦略的に向き合うことができるでしょう。

相続は、感情と法律とお金が交差するテーマです。

「親の家をどうするべきか?」誰かと一緒に考え、迷ったときに相談できる環境が大切です。

【監修者】
村上 雄介 相続不動産株式会社 代表取締役
不動産売買仲介・相続コンサルティングを専門として、18年間相続関連の不動産対応に携わる。
宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、
相続診断士。

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