2026.05.15
親の相続を経験しやすい年代である、40代から60代の皆様にとって、両親と暮らし幼少期の思い出などがある「実家」の相続は、単なる事務手続きではありません。それは、家族の歴史を整理し、自分たちの老後や子供たちの未来を考える大きな転換点です。しかし、不動産は現金のように「1円単位で分ける」ことが難しく、放置すれば「負の遺産」として家族に重くのしかかるリスクを孕んでいます。
本記事では、相続登記の義務化を踏まえつつ、家の相続で損をしないための智恵と、円満な解決へ導くための具体的なステップを詳しく解説します。
親が亡くなった後、相続人である子どもたちは、悲しみの中で進めなければならない手続きがどんどんと押し寄せその内容は多岐にわたります。特に不動産が含まれる場合には、遺産分割なども複雑となり、各手続きには期限があることが多いことから慎重になりつつも、速やかに手続きを進めていく必要が出てきます。
家の相続において、最も優先されるのは亡くなった人(被相続人)の意思です。遺言書がある場合、原則としてその内容に従って遺産を分割します。
遺言書がない場合、誰が何を相続するのか相続人全員で合意を交わさないといけないため、遺言書の有無はその後の手続きに大きな影響を及ぼします。
主な遺言書の種類は以下の2つとなっています。その他もありますが、概ね以下の2つを利用するケースが多いでしょう。
• 公正証書遺言 公証役場に保管されており、紛失や改ざんの心配がありません。作成には費用がかかりますが、安心感があります。
• 自筆証書遺言 自宅の金庫や法務局の保管制度を確認しましょう。自宅で遺言書を見つけても封印のある遺言書をすぐに開封しないように注意しましょう。自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での「検認」手続きを経なければ、法的な効力が認められないだけでなく、過料(罰金)の対象となる可能性があります。
民法上の相続人が誰なのか、誰が家を引き継ぐ権利を持っているのか、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取り寄せて確定させます。同時に、家の「本当の価値」を調べます。相続税計算上の価格と実際に取引されている価格では、価格差があることが一般的です。遺言書がなく遺産分割協議を行う際に、この価格差を考慮していないと後々トラブルになるリスクがあります。
また「プラスの財産」だけでなく、未払いの税金や借金といった「マイナスの財産」も漏れなく調査することが不可欠です。
遺言書がない場合、相続人全員で「誰が家を引き継ぐのか」を話し合います。合意ができたら、後のトラブルを防ぐために必ず「遺産分割協議書」を作成し、全員の実印で署名・押印を行います。これがなければ、不動産の名義変更や税務申告を進めることができません。
相続で揉めるケースはこの遺産分割が原因となりますので、遺言書は極力作成しておくようにしましょう。
法務省の発表によると、全国のうち所有者不明土地が占める割合は九州本島の大きさに匹敵するともいわれています。こうした背景から2024年4月1日から始まった相続登記の義務化について、最低限知っておくべきポイントを整理します。
• 3年以内の申請義務 不動産を相続したことを知った日から3年以内に名義変更(相続登記)を行わないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料を科される可能性があります。
• 「昔の相続」も対象 今回の法改正は、義務化以前に発生した相続にも遡って適用されます。「もう何年も前のことだから」と放置している実家がある場合は、早急な対応が必要です。
• 数次相続の連鎖 名義変更をしないまま次の相続が発生すると、相続人がネズミ算式に増えていき、いざ売却しようとしても面識のない親族数十人の同意が必要になるという「凍結状態」に陥るリスクがあります。
家の相続には、目に見えないコストが多くかかります。あらかじめ予算を組んでおくことが大切です。
登記手続きは自分で行うことも可能ですが、法務局の相談対応もあまり柔軟とはいえず、日中仕事をかかえている現役世代の方にとっては時間的制約もあるため、司法書士へ依頼することが多いのが実情です。
・登録免許税 不動産の固定資産税評価額に0.4%を乗じた金額です。例えば、評価額3,000万円の家なら12万円かかります。
・書類取得の実費 戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書などの取得に、1通数百円〜750円程度かかります。転籍が多い場合は数万円になることもあります。
・司法書士報酬 相場は3万円〜10万円程度(物件数や難易度による)で、司法書士事務所によって異なります。
相続税の申告が必要な場合、税理士に依頼することがおすすめです。毎年のように変わる複雑な各種特例制度があり、特に不動産がある場合には、その評価方法によって負担する相続税額に大きな差が出ることも珍しくないため、なるべく相続に慣れた税理士へ依頼するようにしましょう。
報酬の目安は、遺産総額の0.5%〜1%程度が一般的です。
「家を相続すると高い税金がかかるのでは?」という不安に対し、国は相続人がその後も生活の拠点は確保できるように、住む場所を守るための強力な優遇策を用意しています。
亡くなった方の財産の総額が、基礎控除以下の場合、相続税はかかりません。
相続税には「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という基礎控除があります。例えば相続人が子供2人の場合、4,200万円までの遺産であれば相続税はかからず、申告も不要です。
総額を算出した後、実際に遺産を相続する割合に応じて相続税を負担することになります。
亡くなった方の配偶者が遺産を相続する場合、1億6,000万円まで、あるいは法定相続分までであれば、相続税はかかりません。
<配偶者と子供が相続人である場合>
配偶者2分の1 子供(2人以上のときは全員で)2分の1
<配偶者と直系尊属が相続人である場合>
配偶者3分の2 直系尊属(2人以上のときは全員で)3分の1
<配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合>
配偶者4分の3 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)4分の1

第2の基礎控除と呼ばれるくらい、頻繁に活用されている特例制度であり、自宅の土地やアパートなどの賃貸用不動産が建っている土地の評価額を大きく減額できる制度となります。
なかでも効果が大きいものとしては、「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」があり、実家の土地評価を最大330㎡まで80%減額できる強力な節税策となります。
親と同居していた子供や配偶者が家を引き継ぐ場合などに適用されます。例えば、4,000万円の土地が800万円の評価まで下がるため、これだけで相続税がゼロになるケースも多いです。

相続した古い家を売却する場合、売却益から最大3,000万円を控除できる制度です。詳細な適用条件があり、実家の不動産に適用可能かどうかしっかりと確認する必要があります。
いずれの特例適用にあたっては詳細な条件があり、あてはまるつもりでも実は使えなかったという場合、税額に与える影響は非常に大きなものとなります。
慎重な判断が必要となるため、相続に慣れた税理士と連携しながら進めることが重要です。
実家の相続で最もトラブルになりやすいのが「分け方」です。家族構成や資産背景、個別事情により選択肢が変わってきます。各手法のメリット・デメリットをよく理解して判断していくようにしましょう。
遺産のなかから、資産の種類別に相続人を分ける方法です。例えば、長男が家(土地建物)を、次男が預貯金を相続するというように、財産をそのままの形で分ける方法です。
• メリット 手続きがシンプルで、手間がかからない。
• デメリット 不動産の価値とバランスの取れる資産が無い場合、不公平感から感情的な対立が生まれやすい。

特定の相続人が家を相続する代わりに、他の相続人へ「代償金」を現金で支払う方法です。
• メリット 家を売らずに住み続けられ、金銭面での公平性も担保できる。
• デメリット 家を継ぐ側に、代償金を支払うためのまとまった現金が必要です。

家を売却して現金化し、諸費用を差し引いた残りを全員で分ける方法です。
• メリット 最も公平で揉めにくい。相続税の納税資金も確保できる。
• デメリット 思い出の実家が失われる。売却に時間がかかったり、希望価格で売れなかったりするリスクがある。

親子ではなく、兄弟姉妹での相続人で持ち分を分ける方法です。
不動産は非常に分けにくい財産であり、明確な方針のない共有は将来トラブルを引き起こす可能性が高いため、極力避けるべき方法となります。
将来売却などをする際に共有者全員の同意が必要です。共有者との足並みを揃える必要があるため、関係が円満でないと手続きが進まない事態が発生することがあります。また毎月や毎年かかる経費があれば、その費用負担を誰が取りまとめるのか、外部とのやりとりや事務負担などが積み重なり、共有者の関係悪化につながる懸念があります。

空き家を相続した場合でも、すぐに手放す人よりも使わなくても物置などで保有を継続している方が多いのが実情です。ただ、相続した実家に誰も住まない場合、放置することはリスクが潜んでいます。
「特定空家」等に指定されると固定資産税が6倍に
適切に管理されていない空き家は、自治体から「特定空家」や「管理不全空家」に指定されることがあります。指定されると、これまで受けていた固定資産税の優遇措置が受けられなくなり、税金が最大6倍に跳ね上がります。
管理責任と近隣トラブル
空き家になっても、庭木の剪定、火災保険料、修繕費はかかり続けます。また、建物の倒壊や放火、害虫の発生で近隣に損害を与えた場合、所有者は損害賠償責任を問われる可能性があります。
親から土地を相続したが、自分で使う予定もなく、活用するつもりもない。そうした土地については、2023年から始まった「相続土地国庫帰属制度」の利用を検討しましょう。 一定の審査手数料と負担金を支払うことで、土地を国に引き取ってもらうことができます。ただし、建物が解体されていることや、土壌汚染がないことなど、厳しい条件がある点に注意が必要です。
家の相続をスムーズに進める最大のポイントは、「親が元気なうちに動く」ことです。
1.家族会議を開く
親が将来この家をどうしたいのか、きょうだいがどう考えているのかを共有するだけで、トラブル回避につながります。
2.不動産の価値を正しく知る
今の実家がいくらで売れそうか、あらかじめ査定しておくことで、遺産分割の想定が可能になります。
3.専門家に相談する
司法書士 名義変更(登記)や遺言書作成のサポート。
税理士 節税特例の活用アドバイスや相続税申告。
宅建士 対象不動産の現状把握や市況の認識。
家の相続は、法律や税金の問題であると同時に、家族の感情がぶつかり合うデリケートな問題です。また不動産という分けにくい財産の最たるものであるため、ご家族構成や資産背景を考慮した対応が必要です。
そのため、現状を正しく理解し、早めに対策を立てることで、大切な資産を円満に次世代へ引き継ぐことができます。
「まだ先のこと」と先延ばしにせず、まずは家族で将来の話をしたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。専門家の力を上手に借りることで、あなたとあなたの家族の未来を守ることができます。
相続不動産株式会社では、相続に強い専門家と連携した対応をしております。ご不安な点、お悩み事などございましたら、お気軽にご連絡をお待ちしています。
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