2025.06.24
「親が不動産を持っている。そろそろ相続のことも考えなければ」
そんな風に思いつつ、なかなか具体的な準備を始められず、何も準備をしていないという方は少なくありません。
相続に関する制度は複雑で、相続税や不動産の評価、名義変更、遺産分割協議など、いざ相続が発生すると対応すべき手続きが一気に押し寄せます。
また制度だけではなく、親族間の人間関係も急にやりとりが増えることから、これまでは遠ざけていれば済んでいた関係も改めて話し合いが必要となるなかで、トラブルに発展するケースもあります。
ただ、「事前に対策していれば避けられた」トラブルも少なくありません。
そのような背景から注目されているのが、「相続コンサルティング」というサービスです。
相続コンサルは、税理士や司法書士、不動産の専門家などと連携しながら、資産の棚卸しから節税対策、相続手続きの実行支援までを一貫してサポートする存在です。
このコラムでは、相続コンサルティングの全体像を解説しつつ、相続を円滑かつ安心して迎えるために必要な知識と行動をお伝えしていきます。
「相続なんて、親が亡くなってから考えればいい」と思っていませんか?
確かに昔は、家督相続の名残もあって長男を中心に話し合いが行われ、自然と相続が進んでいくという文化もありました。しかし現代では、権利をしっかり主張する相続人同士のぶつかりが多くなり、かつてのように互いに察して話し合いでなんとかなる時代ではなくなっています。
実際、「相続財産の半分以上が不動産」というケースは珍しくありません。土地や建物は現金のように分けにくいこともあり、思わぬ相続人間でのトラブルに発展するリスクがあります。
加えて、最近では不動産価格の高騰にともない、相続税の課税対象となるケースが増えています。相続税の申告納税には期限があり、基本的には10ヶ月以内に現金一括で納税しなければなりません。そのため、相続が発生する前に「何が課題か」を把握しておくことはとても大切なことです。
相続コンサルが果たす役割
相続コンサルティングの役割は課題の整理と実行サポートがメインとなります。気づいていないリスクを可視化することで、対策方法や今後の方針が明確となります。
そのなかでも「不動産をどう扱うか」という問題は、専門知識がなければ誤った判断に陥りやすい領域です。売却、共有、賃貸、活用など、選択肢は複数あるからこそ、冷静な判断と比較検討が必要なのです。
なぜ「今」なのか?
大半の相続は思いがけずにやってきます。そして、気づいたときには対策するための時間がなかったり、推定被相続人の体力的に難しかったりすることが多いのが実情です。こうした背景から、相続対策には「早すぎる」ということはありません。むしろ、「親が元気なうち」「家族関係が良好なうち」に話し合っておくことで、トラブルの種を取り除くことができます。
特に令和以降は、相続税や生前贈与の制度改正も進み、専門家でも都度キャッチアップが必要な状況です。だからこそ、専門家の視点でリスクを事前に洗い出し、個別に最適な「相続コンサルティングプラン」を立てることが、安心につながります。
相続対策と聞くと、「うちはそんなに資産がないから」と税金対策だけだと思われがちです。実際に相続の現場で必要となるのは、もっと広範な課題があり対応が必要です。
相続コンサルティングの本質は、税金をどうするかにとどまらず、相続人間のトラブル回避、不動産の活用、心理的なケアまで含めた「家族の未来を設計する総合支援」にあります。
税金だけでは解決できない現実的な問題
相続財産のうち不動産が大半を占める場合、相続人の間でどのように分けるか揉めるケースが少なくありません。
非常によるあるパターンとして、実家で親と同居している相続人と既に自分で家を購入している相続人がおり、相続財産の大半が実家の不動産のみであるケースです。
同居している相続人にとっては、生活の拠点となっているため、すぐに引越しできないなどの事情もでてくる場合があります。
こうした遺産分割の具体的な判断については、税理士の領域を超えた問題です。誰がどの物件を引き継ぐのか、共有にすべきか単独所有にすべきか、そういった判断には不動産の実務知識が不可欠です。
また、「賃貸中のアパートを相続したが、管理ができない」「遠方にある実家を売るべきか、残すべきか」といった相談にも、税金の知識だけでは対応できません。こうした課題に的確に応えるには、不動産業界・資産活用の知見と経験を持った相続コンサルタントが必要となります。
不動産・法務・心理支援までを見据えたワンストップ対応
相続コンサルティングが注目されている最大の理由は、「ワンストップサービス」が可能である点にあります。つまり相続に関する以下の要素を一括で支援してくれるのです。
相続人が各専門家とやりとりする度に事情を全て共有し、進捗についても漏れなく報告すること難しいケースもあります。
特に不動産を中心とした相続では、「税理士だけでは足りない」「不動産業者だけでは不安」という声が多く聞かれます。
それを一手に取りまとめてくれるのが、相続コンサルタントの強みなのです。
相続支援の幅広さが、相談者に安心感を与える
相続は人生でも数回しか経験しないものでありますが、範囲が広く高い専門性も必要となるため、どうしたらいいか不安を抱えている方も多いです。
そうした不安に寄り添いながら、法律・税務・不動産という専門領域を横断して「自分ごと」として提案してくれるのが相続コンサルティングとなります。
親が不動産を所有している
遺産分割で1番もめやすいのは相続財産に不動産がある場合です。売却して現金で分けることで一致できればいいですが、相続人の1人がその不動産に住んでいたりすると、売却に反対したり、かといって不動産を相続する代わりに渡す代償金を用意できなかったりするケースが目立ちます。
不動産は、その特性上は分けづらく、評価額も分かりにくい財産です。また名義変更や登記手続きにも専門知識が必要です。誰が相続するかをめぐって、兄弟間で対立が起きるケースも少なくありません。
相続コンサルタントであれば、こうした問題を事前にシミュレーションし、「揉めない分け方」や「納税資金の確保法」などを具体的に提案してくれます。
家族に揉め事が起きないか心配している
遺産をどう分けるか、納税はどうするの。相続において「お金の話」は感情的になりやすく、普段は仲の良い家族でも、関係がこじれてしまうことがあります。
こうした事態を防ぐには、第三者の視点を持った専門家が介在することが有効です。
相続コンサルは、相続人全員にとって納得感のあるプランを提示し、対話のきっかけをつくる役割も担っています。
自分自身が「何をしていいかわからない」と感じている
相続は、「気がついたら期限が迫っていた」ということも起こりえます。申告・納税・名義変更など、10ヶ月以内に終えるべき手続きは多岐にわたります。
そのなかで、「何から始めればいいのかわからない」「誰に何を頼めばいいのかわからない」という不安を抱える方も少なくありません。
相続コンサルティングでは、そうした漠然とした不安に対して、「今やるべきこと」「やらなくてもいいこと」を整理し、優先順位を明確にしてくれます。
財産の全体像が「見える化」される
課題の整理や効果的な対策などを行うには、まず財産の全体像を確認するところから始まります。
まず大きな変化は、相続財産の全体像が整理されることです。
親が所有している資産が、不動産・現金・預貯金・有価証券・保険など複数ある場合、それぞれの評価額や名義を整理しなければ、正確な相続税の計算や分割案を立てることができません。
相続コンサルでは、こうした資産の「棚卸し」や「評価」を行い、一覧として可視化することから始めます。
これにより、「何がどれくらいあるのか」「誰にどのように渡すか」を現実的に考えられるようになります。
相続税の節税対策や納税資金の確保が可能に
相続対策においては、「納税」「遺産分割」「節税」と大きく3つの対策がありますが、
実際に相続が発生すると、不動産を含む相続ではその財産規模により、数百万円〜数千万円の相続税が発生することも珍しくありません。
相続コンサルタントは、税理士と連携しながら、控除や特例の適用、有効な生前贈与の活用など、具体的な節税策を提案してくれます。
また、納税のために慌てて不動産を安く売るような状況を防ぐため、納税原資の準備方法や保険の活用なども一緒に検討します。
相続人間の調整がスムーズになる
相続では経済面だけでなく、これまで長年にわたるストレスが相続を機に表面化して感情的な争いになるケースもあります。遺言書がなかった場合、遺産分割協議がまとまらない原因にもなります。
第三者であるコンサルタントが入ることで、客観的な視点からプランを提示し、冷静な話し合いの場を整えることができます。
実際、相続コンサルを利用することで、「兄弟同士の話し合いがスムーズになった」「親族間の不信感が軽減された」という事例も多く報告されています。
実行支援まで含めた「行動につながる助言」が受けられる
インターネットやSNS、書籍などで情報収集することは可能です。ただ、実際自分たちの場合どうなるのか、具体的な行動をサポートしてくれる人はいないのかという悩みにぶつかります。
相談者自身が「次に何をすればいいのか」「どの専門家に依頼すべきか」を理解し、具体的に動ける状態にすることが重要です。
その点、相続コンサルティングでは、計画を立てるだけでなく、実行のサポートまで行うケースが多く、煩雑な手続きを一貫して支援してくれます。
相続に強い総合力のある専門家かどうか
相続コンサルタントとはいっても様々な背景を持っています。最も重要なのは、「一つの分野だけでなく、相続全体を俯瞰して見られる専門家」であるかどうかです。
また相続財産には不動産が関連することが多いことから、不動産分野にも強いコンサルタントが望ましいと考えられます。
相続コンサルティングを依頼する場合は、税務・法務・不動産を横断的に理解し、必要に応じて他の専門家と連携できる体制があるかどうかを確認しましょう。
初回相談が売り込みではなく、ヒアリング重視かどうか
初回相談でいきなりサービスを売り込んでくるような事業者は要注意です。
本来、相続コンサルティングは相談者の状況を丁寧にヒアリングし、現状を把握するところからスタートするべきです。
信頼できる相続コンサルタントは、まず「何に悩んでいるのか」「相続人は誰か」「不動産や資産の種類はどうか」といった点をじっくり聴き、そのうえでプランを組み立てます。
費用の透明性とプランの柔軟性があるか
相続コンサルの費用体系は、相談料・着手金・成果報酬・顧問契約料など、事業者によってさまざまです。
そのため、「何にいくらかかるのか」「どの段階で支払いが発生するのか」が明示されているかどうかを、事前に確認しましょう。
また、相談内容に応じて柔軟にプランを組み立てられるかどうかも大切です。
「相談は無料だが、実行支援は有料」「スポット契約と顧問契約が選べる」など、複数の選択肢が用意されているかをチェックしてください。
「相続コンサルに相談するとして、実際には何をするの?」
ここでは、一般的な相続コンサルティングの流れと、事前に準備しておくべきことについて解説します。
ステップ① 初回相談(ヒアリング)
まずは、コンサルタントとの初回面談からスタートします。
この段階では、まだ契約には至らないことが多く、相談者の不安や現状をしっかりと聞き取る時間が設けられます。
主に話す内容は、「ご家族構成と関係性」、「被相続人の資産状況」、「遺言があるかどうか」、「相続税が発生しそうか」、「争いやトラブルの懸念があるか」など多岐にわたります。
こうしたヒアリングを通じて、どのような対策が必要か、おおよその方向性が見えてきます。
ステップ② 資産の棚卸と課題の洗い出し
ヒアリング後、必要に応じて各種資料の提出を求められます。「固定資産税の納税通知書」、「登記簿謄本や名寄帳」など主に不動産関連書類が中心となりますが、既に相続が発生しているのか、生前でのご相談か、相続財産の種類によっても書類が異なります。
主に通帳のコピーや保険契約書、有価証券の残高明細など金融資産に関連する書類については、特に生前でのご相談の場合開示までしなくても大丈夫でしょう。
メモにまとめていれば基本的には対応可能です。
これらの情報をもとに、相続財産の「棚卸し」を行い、相続税額の試算や納税資金の不足リスク、遺産分割の難しさなどの課題を明確化します。
ステップ③ 対策プランの提案
現状分析が終わると、コンサルタントから具体的な対策プランが提示されます。
内容はケースにより異なりますが、たとえば次のような対策が含まれます。
コンサルタントは、「節税になる」「争いを防げる」「納税できる」など、目的ごとに適切な手段を整理し、相談者にわかりやすく説明してくれます。
ステップ④ 必要に応じた実行支援と連携
プランに納得したら、実際の対策実行に進みます。
この際、税理士による相続税申告、司法書士による登記、信託契約書の作成、宅建士による売却サポートなど、必要に応じて各専門家がチームで対応するのが相続コンサルティングの強みです。
また、コンサルタントは、各種専門家の“調整役”として動いてくれるため、相談者が個別にやり取りする負担が少ないのも大きなメリットです。
最後に
相続の問題は「お金」の話であると同時に、「家族」と「未来」の話でもあります。
だからこそ、ひとりで悩まず、専門家と一緒に“わが家に最適な形”を見つけていくことが、何より大切です。
「何から始めたらいいか分からない」「まだ元気なうちに準備しておきたい」と感じている方は、まずは相続コンサルに相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
【監修者】 村上 雄介 相続不動産株式会社 代表取締役 不動産売買仲介・相続コンサルティングを専門として、18年間相続関連の不動産対応に携わる。 宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 相続診断士。 |
相続・不動産コラム